<精神医療を巡る動きと医労連の取り組み>
♥隔離・収容中心の精神医療の歴史的背景
我が国の精神医療は、社会防衛的な誤った視点から、世界でも例を見ない隔離・収容中心の政策が長年に渡り行われてきました。政府は、1958年に一般病床より少ない配置人員を認める厚生省事務次官通知を出し、「精神科特例」によって、民間の精神病院の建設を推進しました。欧米諸国が公立中心であるのに対して、日本の精神病院の8割(病床数は9割)が民間病院となっています。少ない人員・低い報酬の中で多数の長期入院患者で病床を満床にすることで経営を成り立たせるという状況が作られてきました。このことが、「入院中心から地域生活中心への転換」が進まない要因にもなっています。
欧米諸国が入院から地域へと転換を図った後も、日本では入院中心の精神医療が継続され、日本の精神病床は世界の精神病床の2割を占める大量のベッドを抱える国となっています。人口1万人当たりの精神病床数は、OECD平均6.8床であるのに対して、日本は26.9床と数倍となっています。在院日数も、日本以外の先進諸国の平均は18日であるのに対して、日本は265.8日(2018年)にもなっています。
<注>精神科特例
1985年当初は、一般病床に対して、医師1/3、看護職員2/3、薬剤師7/15
現在の医療法施行規則では、看護職員は一般病床に対して3/4
欧米諸国が入院から地域へと転換を図った後も、日本では入院中心の精神医療が継続され、日本の精神病床は世界の精神病床の2割を占める大量のベッドを抱える国となっています。人口1万人当たりの精神病床数は、OECD平均6.8床であるのに対して、日本は26.9床と数倍となっています。在院日数も、日本以外の先進諸国の平均は18日であるのに対して、日本は265.8日(2018年)にもなっています。
<注>精神科特例
1985年当初は、一般病床に対して、医師1/3、看護職員2/3、薬剤師7/15
現在の医療法施行規則では、看護職員は一般病床に対して3/4
♥コロナ禍の下での精神病院の実態
精神病院では、精神疾患がある為に新型コロナに感染してもまともな治療が受けられる病院に受け入れてもらえない患者が大勢います。その上で、精神病院では感染症に対応できる設備がないために、大規模なクラスターに発展するケースが多発しています。一般病院に比べて体制の薄い精神科病院では、重症化しても転院できない事や陽性者が隔離され、まともな治療もケアも行う事が出来ない事態が発生しています。日本医労連は2021年3月精神病院での感染者発時の対応や院内感染対策防止策などに関わって、患者の人権を守り適切な治療の保障を求めて厚生労働省に要請を行いました。コロナ禍でも患者の人権が損なわれないようにしっかりと対策を講じるよう求めてきました。
♥精神病院から虐待の通報が半分以下
神戸市の精神病院で、看護師らによる虐待事件が発生したことを受け厚生労働省は監督権限を持つ都道府県などに調査を行いました。調査では、過去5年間で自治体が把握した虐待の疑いがある事案を調べるとともに、把握したきっかけについても調査しました。その結果、医療機関から自治体に通報があったのは半分以下にとどまり、患者や家族、匿名の人からの通報で発覚しているケースが半数を占めている事が明らかになりました。障害者虐待防止法は福祉施設や会社などに自治体への通報義務を定めていますが、病院は含まれていません。専門家は虐待の実態が見えない原因にもなっているとして、通報の義務化などが必要だと指摘しています。
♥実態にあった人員配置の引き上げを
「長期入院が多く症状が固定的だから、精神病床の人員配置基準を一般病床より低い療養病床相当としている」と言う厚労省の答弁は詭弁であり全く実態にあっていません。100床当たりの職員数(2017年度病院報告)では、7看護師は一般病院57.9人に対して、精神科は22.7人と半分以下であり「事務次官通知」が廃止されたと言っても、精神科差別の「精神科特例」は解消されていません。急性期だけでなく入院し退院までの全期間で、一般病床と同等以上に引き上げが必要です。医労連でも年2回実施している政府交渉では、厚生労働省に対して精神科の人員配置の見直しを求めています。
♥厚生省「630調査」の非開示問題
厚生労働省「精神保健福祉資料(630調査)」は、毎年6月30日時点の精神病院の状況を調べているもので、市民団体が都道府県などに情報開示請求し、精神科病院の状況を知る基礎資料となっています。しかし、2018年以降630調査について情報を非公開としている事が問題となっています。毎日新聞が精神疾患で50年以上入院している患者が1773人にも及ぶと報道したことに対して日本精神科病院協会が「患者の個人情報保護」を理由として調査への協力を拒否することをにおわせた事が発端となり、非公開の決定をする都道府県が相次ぎました。
これに対して市民団などが、2019年2月国会内で集会を開催してこれまで通りの開示を要求しています。今回の動きは個人情報の名目で精神科病院の情報を隠すもので、国民の利益を損なうものであると指摘しています。
これに対して市民団などが、2019年2月国会内で集会を開催してこれまで通りの開示を要求しています。今回の動きは個人情報の名目で精神科病院の情報を隠すもので、国民の利益を損なうものであると指摘しています。
♥身体拘束1万人、高齢者が66%
630調査では、指定医から隔離や拘束の指示が出された人数についても集計しており、2017年度からの調査方法の変更で年代別や疾患別などの内訳も初めて判明しました。身体拘束は10年間で2倍に増加しています。2020年度調査では、身体拘束は全体で1万995人となっており、65歳以上の高齢者が65%を占めています。疾患別では、統合失調症・妄想性障害が41%と最も多く、認知症の人も27%いました。隔離は1万2689人」で、統合失調症の患者が63%を占めていました。しかし、医労連は行動制限が、配置人員とも密接に関係しており配置人員が潤う事で解決できる行動制限があるのではないかと考えており改善を強く求めています。
♥身体拘束 日本はアメリカの260倍超え
日本は人口100万人当たり身体拘束が98.8人で、アメリカの0.371人と比べて260倍にも及ぶ事がわかりました。他国と比較して歴史的背景も否めないが、一般医療から少ない医療スタッフで運営されている病院が多いことが影響していると指摘されています。また、厚労省が発表した調査結果では、医師が5663日(約15年半)もの長期間に渡り患者の身体拘束を指示していたという結果も出ています。精神科、77日間に渡り不当に身体拘束され精神的苦痛を受けたとして病院を訴えた訴訟では、東京地裁が症状改善後の17日間の拘束を「違法」と認め、賠償を命じています。
♥進む2極化新入院者の減少と短期入院化、長期入院者の高齢化
精神科病床が津の病床利用率は、1990年代までは100%前後ありましたが、2021年6月分の統計(病院報告)では、全国平均83.6%まで低下し、都道府県別に見ても90%台はなくなってきています。新規入院者の減少と入院の短期化、長期入院者の高齢化と言う在院患者の「二極化」が進んでおり65歳以上の患者の割合は60%に達しています。今後もこの現象は急速に進むと考えられ、入院患者を追求する経営は危機に直面しています。
病床利用率の低下に伴い、経営危機を打開すする為にと認知症患者を入院させることで経営の安定を図ろうとする病院も出てきています。2021年6月末の精神科病床数316543床、在院患者269476人ですが、在院患者のうち認知症患者は4万8千人で、認知症患者を除いた在院患者は22万1千人となり、病床利用率は69.8%と70%を切っています。しかし、認知症患者の精神科病院への入院は、隔離収容政策の誤りを再び繰り返すことにもなりかねません。医労連は強く反対しています。基本は、精神疾患や認知症があっても住み慣れた地域で行き届いた体制の下、地域で治療や支援が受けられるべきではないかと考えています。
病床利用率の低下に伴い、経営危機を打開すする為にと認知症患者を入院させることで経営の安定を図ろうとする病院も出てきています。2021年6月末の精神科病床数316543床、在院患者269476人ですが、在院患者のうち認知症患者は4万8千人で、認知症患者を除いた在院患者は22万1千人となり、病床利用率は69.8%と70%を切っています。しかし、認知症患者の精神科病院への入院は、隔離収容政策の誤りを再び繰り返すことにもなりかねません。医労連は強く反対しています。基本は、精神疾患や認知症があっても住み慣れた地域で行き届いた体制の下、地域で治療や支援が受けられるべきではないかと考えています。
♥精神科にも影響する医療・介護医提供体制の再編
政府は団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に、住まい、医療、介護、生活支援が一体的に提供される「地域包括ケアシステム」を構築するとし、医療・介護総合推進法で、病床機能報告制度(一般病床・療養病床)と「地域医療構想」の策定が法制化されました。背景には医療費抑制のためのベッド減らしの狙いがあり、17年3月までに策定された「地域医療構想」は全国47都道府県の入院ベッドを、13年時点の約135万床から15万6千床(11.6%)も削減する計画です。削減計画は医療圏域ごとの「地域医療構想調整会議」で具体化されることになっていますが計画通りにはすすんでいません。これに対して政府は、2019年9月に424の公立・公的病院を名指しして病床削減のための再検証を求め、2020年秋までに報告するように指示してありましたが、コロナ禍の為に棚上げになっています。しかし、政府は、2021年の通常国会では消費税を財源とする病床削減推進の為に法改正を断行しています。
医療・介護提供体制の再編は、精神科医療の今後にも関わってきます。「これからの精神医療保険福祉の在り方に関する検討会報告」(2017年2月)は、精神障害者にも対応した「地域包括ケアシステム」の構築、多様な精神疾患に対する医療連携体制、精神病床の更なる機能分化などを掲げ2025年の精神科の入院需要、地域移行に伴う基盤整備量の目標の明確化などを打ち出しています。こうした地域医療再編の中で、地域の受け皿が不十分なまま精神病床の削減だけが一方的に進められてしまう事が懸念されます。私たちが求める改革は、精神病床を削減することが目的ではなく、精神疾患や認知症があってもだれもが必要な治療や支援が受けられ安心して暮らしていける地域を作ることにあります。これからも運動を推し進め、患者・家族・住民本位の地域医療を作る運動を進めるとともに精神保健医療福祉の改善を求める世論を広げ、国会や政府を動かしていく運動を起こすことが大切です。
※回日本医労連 第53回精神医療関係労組全国交流集会基調報告より抜粋
医療・介護提供体制の再編は、精神科医療の今後にも関わってきます。「これからの精神医療保険福祉の在り方に関する検討会報告」(2017年2月)は、精神障害者にも対応した「地域包括ケアシステム」の構築、多様な精神疾患に対する医療連携体制、精神病床の更なる機能分化などを掲げ2025年の精神科の入院需要、地域移行に伴う基盤整備量の目標の明確化などを打ち出しています。こうした地域医療再編の中で、地域の受け皿が不十分なまま精神病床の削減だけが一方的に進められてしまう事が懸念されます。私たちが求める改革は、精神病床を削減することが目的ではなく、精神疾患や認知症があってもだれもが必要な治療や支援が受けられ安心して暮らしていける地域を作ることにあります。これからも運動を推し進め、患者・家族・住民本位の地域医療を作る運動を進めるとともに精神保健医療福祉の改善を求める世論を広げ、国会や政府を動かしていく運動を起こすことが大切です。
※回日本医労連 第53回精神医療関係労組全国交流集会基調報告より抜粋
♥2014年障害者権利条約対日審査を終えて厳しい勧告が出る
障害に基づくあらゆる差別の禁止を定めた「障害者権利条約」は2006年に国連で採択されました。 日本もこの条約に2007(平成19)年に外務大臣が署名し、2013(平成25)年12月に批准が正式に国会で承認され、翌年1月に批准書を国連に寄託し、締約国となり、同年2月より日本においても障害者権利条約が発効しました。
締約国には、条約に規定された事項が守られているかを監視する機関の設置が義務づけられており、2022(令和4)年8月にスイスのジュネーブで日本に対する初めての国連の障害者権利委員会による対面での審査が行われました。そして翌月の9月9日に審査結果と勧告が公表されました。審査、勧告は、委員が日本政府の代表団に質問し、そのやりとりを踏まえたものです。
この勧告には拘束力はありませんが、勧告の内容には、脱施設化やインクルーシブ教育、福祉的就労に関することなどが含まれています。したがって締約国としては尊重すべきであり、真摯に受け止め、今後へ向けた確かな対応を示さなければならないと思います。
締約国には、条約に規定された事項が守られているかを監視する機関の設置が義務づけられており、2022(令和4)年8月にスイスのジュネーブで日本に対する初めての国連の障害者権利委員会による対面での審査が行われました。そして翌月の9月9日に審査結果と勧告が公表されました。審査、勧告は、委員が日本政府の代表団に質問し、そのやりとりを踏まえたものです。
この勧告には拘束力はありませんが、勧告の内容には、脱施設化やインクルーシブ教育、福祉的就労に関することなどが含まれています。したがって締約国としては尊重すべきであり、真摯に受け止め、今後へ向けた確かな対応を示さなければならないと思います。
<勧告の主なポイント>朝日新聞 2022(令和4)年9月14日をもとに作成
強制入院について
障害者の強制入院によって自由を奪うことを認めるすべての法的規定の廃止
精神病院の在り方について
隔離・身体拘束、強制投薬など強制治療を正当化する法律への懸念など
脱施設化について
障害児者の施設入所を廃止し、地域社会での生活支援に向けた迅速な措置をとることなど
インクルーシブ教育について
分離された特別支援教育をやめさせるため、障害のある生徒が合理的配慮と、必要な個別の支援を受けられるようにすることなど
※なお、障害者の働く権利の問題とも関連することとして、「福祉的就労の場」への否定的な見解を示す勧告や旧優生保護法下で不妊手術を強いられた被害者への謝罪や期間を限らない救済のことなども含まれているという。
勧告には拘束力はありませんが、締約国としては尊重すべきであり、真摯に受け止め、今後へ向けた日本流の確かな対応を示さなければならないと思います。
もし勧告に対して、納得してもらえるような明確な説明や合理的な対応ができないとすれば、日本には文化国家としての明確な教育理念、福祉理念が確立していない事になり、また、勧告を生かした改革が今後、行われるように世論形成を含め関係団体が結束して運動を起こして行く必要がある。
勧告には拘束力はありませんが、締約国としては尊重すべきであり、真摯に受け止め、今後へ向けた日本流の確かな対応を示さなければならないと思います。
もし勧告に対して、納得してもらえるような明確な説明や合理的な対応ができないとすれば、日本には文化国家としての明確な教育理念、福祉理念が確立していない事になり、また、勧告を生かした改革が今後、行われるように世論形成を含め関係団体が結束して運動を起こして行く必要がある。
これからの精神科医療について学習しよう!
日時 12月9日(土)15時~16時50分
場所 石川県地場産業振興センター
金沢市鞍月2丁目20番地 076-267-1001
講演 「精神医療の現状と近未来」~大元からの転換が避けられなくなった日本の精神医療~
講師 氏家 憲章さん(元 日本医労連精神部会長)
参加費 無料
精神疾患の罹患者は増加している。しかし・・精神科病院のベッドは空床だらけ・・・
精神科病院の「崩壊の危機」のシナリオは始まっている。本当に国民のメンタルヘルスを守り、ニーズに答えられる精神科医療政策に日本はなっているのか?中々進まない地域移行。
なぜ日本だけが政策転換が大きく立ち遅れているのか。なぜ先進国の精神医療、そして国内の一般医療と大きな格差があるのか。精神医療の政策転換の展望はどこにあるのか?みんなで一緒に考えてみませんか。
ZOOMでも参加できます。 ミーティングID:879 2134 4576 パスコード:982538
どなたでも参加できます。多くの方の参加をお待ちしております。
主催 石川県医療労働組合連合会 金沢市昭和町5-13 平和と労働会館2階
電話076-261-8829 FAX076-261-8918